西洋薬?漢方薬?
西洋薬と漢方薬は、全く別物と考えても良く、それゆえにお互い得意・不得意があり、併用も可能です。
西洋薬は基本成分が単剤でなければならず、1薬剤につき、1症状をしっかり改善します。そのためこの病気ならこの薬、と、対応することが出来ます。効果、副作用、副症状が割とはっきりしています。
一方、漢方薬は、そもそもが多数生薬の合剤です。古来から引き継がれてきた漢方医の経験により、病気の状態をパターンに分け、その状態を改善するのを目標としています。
漢方同士の併用は基本的には良くはなく、併用して良いものが合方として限られており、また勝手にこの配分を変えることも良しとされません。
数千年の知恵を、一介の漢方医が変えてはならないのです。武道のような厳しい掟が存在します。
例えば、更年期障害によく用いられる『桃核承気湯』を例にしてみましょう。
「暑がり」・「のぼせ気味で赤ら顔」・「時に頭痛」・「不安や興奮」・「イライラによる不眠」・「めまいや耳鳴り」・「肩凝り・腰痛」などがあり、「便秘がち」で、「月経不順・困難による腹痛のある」人には良い適応です。逆を返せば、これらの症状のほとんどある人こそ、まさに『桃核承気湯』の効くパターンの人であり、そのパターンの人が多いからこそ、『桃核承気湯』があるとも言えます。
イライラから血圧の上がる人には、血圧を下げる作用もあります。交感神経が立っているのでしょうね。
このパターンではない人、例えば、「イライラしない落ち着きのある人」にはあまり効果はありませんし、場合によっては症状が悪化します。「便秘無く下痢気味」の人にもダメです。西洋薬で治そうとしたら、降圧薬・抗不安薬・解熱鎮痛剤・下剤・血流改善剤などを合わせて出さなければなりません。『桃核承気湯』で済む漢方の得意とするところですね。逆に症状が少なければ、西洋薬の方が切れが良いです。
西洋薬とは逆に、漢方薬には、「月経不順ならこの処方」はありません。月経不順や更年期障害だけでも、『当帰芍薬散・温清飲・大黄牡丹皮湯・女神散・柴胡桂枝乾姜湯・加味逍遙散・桂枝茯苓丸・通導散・四物湯・温経湯』などがあります。このうちからその人に一番あった物を探し出さねばなりません。
『桃核承気湯』に合方(漢方同士の併用)が許されるのは、大柴胡湯、小建中湯、中建中湯です。『桃核承気湯』は生薬5種なのでまだ良いですが、同じ生薬が重なるといけないので、含まれる生薬が多いほど合方は難しいのです。『桃核承気湯』は、中国・後漢時代には出来上がっていた長い歴史のある生薬の組み合わせですから、漢方医気取りで組み合わせを変えるようなことは、そうそうしてはなりません。
漢方だから副作用が無いと思われている方もいらっしゃいますが、そもそも合わない漢方を処方すれば副作用どころか症状が悪化します。『桃核承気湯』ならば甘草が入っているのでカリウム低下しやすく、桃仁、芒硝、大黄が入っているため、妊婦にも良くありません。大黄は授乳にも良くないです。
また、効くのに時間がかかると思われる方もいらっしゃいますが、芍薬甘草湯のように超速効性のあるものもは別としても、体に合っていれば、飲み始めればすぐ良くなりだします。一週間しても効かなければ、漢方が合っていない、間違っていると思って良いです。
私は、西洋薬・漢方薬にこだわらず、
その人に合わせて良いとこ取りをすれば良いと考えています。