喉に何か引っかかっていると感じる症状
【機能性ディスペプシアの話】
「喉に何か引っかかった気がするのです!」
そう言って来院される方が、当院には毎日数人いらっしゃいます。
ひどくなると、『胃もたれ』が起こり、『ゲップ』や『おなら』が増えたりします。
喉が詰まった気はするけれども、実際に食事が喉に詰まることはありません。
この症状、仕事が忙しい時にはあまり気になりませんが、ホッとした時に思い出すと急に症状が出現することが多いのです。
耳鼻科で喉を診てもらっても、「異常無いです。内科で診てもらって下さい。」と言われた方や、「アレルギー性鼻炎です。」「逆流性食道炎です。」と誤った診断をされ治療を受けられている方も結構おられます。
実はこれ、『機能性ディスペプシア』という、胃や食道の自律神経失調に基づく病気なのです。
女性に多く、ストレスによって胃や食道の自律神経が失調し、スムースに動かなくなるために起こるのです。
物や唾を飲み込んだら、意識しなくても食物や唾は自然に嚥下されて食道を通過します。ところが、ストレスが強くなると、下手に嚥下を意識してしまい、スムースな協調運動が出来なくなって痙攣様となり、嚥下が上手く進めなくなるため、詰まってはいないのに詰まった気がするのです。
胃の動きも悪く、ひどいときは逆に動いたりして、胃の気持ち悪さ、時に痛みさえ感じるのです。
『機能性ディスペプシア』の病名が確立したのは2013年に健康保険による治療の対象になった10年ほど前です。そのため、専門家以外にはほとんど知られておらず、消化器の専門家でさえ新しい医学を勉強していなければこの病気を知らないため、機能性ディスペプシアと診断する事ができません。「各種検査で異常が無いため、どうも無いです。」と言われて治療もしてもらえません。
【2000年前からある機能性ディスペプシア】
漢方医学では、何と中国後漢時代の医学書である『金匱要略の第22篇婦人雑病篇』に「婦人、咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)あるが如きは、半夏厚朴湯これをつかさどる」と書かれてます。「炙臠(しゃれん)」とは「炙った肉」の意で、つまり「女性で、喉に炙った肉のようなものがひっかかっている感じがする症状には、半夏厚朴湯を使う。」といった意味です。
また、唐時代の『千金方』(650年代)では、半夏厚朴湯の説明に、「婦人、胸満し、心下堅。咽中帖々として炙肉臠あるが如く、これを吐けども出でず、これを咽(の)めども下らざるを治す」と詳しく書かれています。「女性で胸や腹が張って苦しい感じがあり、炙った肉片がのどにへばりついて、吐こうと思って吐けない、飲み込もうと思って飲み込めない。」と言う意味です。このような異物感を、後世では梅の種にたとえて「梅核気(ばいかくき)」と称するようになりました。西洋医学では精神科の古い教科書に、「ヒステリー球」として、ヒステリーの一症状として記載されていた程度でした。
【治療薬の登場】
『機能性ディスペプシア』に良く効く「アコファイド」が発売されるまでは、実際の所、漢方以外に良い治療薬が無かったのです。そのため、「アコファイド」が出るまでは、当院では独自に、スルピリドなど神経に作用するお薬を使っていましたが、切れは良いけれども使い方を誤ると副作用も多いため、一般には勧められず、大変コツのいる治療でした。「アコファイド」は安全で、万人にお勧めできるお薬です。
食道がんなどで本当に詰まっていてはいけないため、保険適応上、「アコファイド」処方前に一度は必ず内視鏡検査をしなければいけない決まりとなっています。